記 憶      小夜千鳥(夜啼鶯):再会の夜の続き





「エドワード…」
再び息もさせないほどに唇を貪り続け、ロイはようやく顔を上げた。
半開きの口からは唾液の細い糸がまだつうと繋がっている。1年ぶりのその感触。ぬめる唇。一度は諦めかけた唇を、指先で軽く拭ってやりながらロイはその持ち主を見下ろした。
ベッドに横たえた愛しい青年、いや、ロイにとっては未だ少年のままだ。額に張り付いた濡れた髪を掻きあげてやると、残る少年の面影がはっきりと見て取れた。
「…ロイ」
はぁはぁと小さく聞こえる乱れた呼吸の後、エドワードがようやく言葉をぽつりと零す。金色の大きな瞳の縁にはうっすらと涙が溜まっている。
「大丈夫か…」
激情のままにいきなり無理をしてしまったかと、ロイは慌てて様子を訊ねるが、エドワードは小さく頭を振っただけで、また手を伸ばす。生身の手は、甘えるようにロイの腕を何度も何度も摩り上げ、機械鎧の指は、もう片方の腕を探り当てると指を絡めようとする。その頼り無げな仕草にロイの胸はまた熱くなった。
「もう今度はやめないからな…」
頬を撫でながらそう告げると、エドワードは薄く笑みを浮かべてこくりと頷いた。
ロイは絡められた指から機械鎧の腕を持ち上げ、何度も口付け、そっとベッドに置く。そして再びエドワードに体を重ねると今度は舌でついっと首筋を舐めた。
「んっ…」
エドワードの体がぴくっと僅かに動く。その反応を確かめると、ロイは残りのものを脱ぎ捨てて、エドワードの湿ったバスローブに手を掛けた。もうひどく乱れて前が大きくはだけ、腰紐も緩んでしまっているが、それでも肝心の部分はまだ覆われている。すでにそこは、布の上から見て分るくらいに、形を成していた。
紐を解くと腰に手を回して体を持ち上げ、まず袖から両の腕を抜いた。それから貴重品の包みを開くように、腰周りを右に左にとゆっくり開いた。
エドワードの全身が現れた。懐かしい白い体。変わらないままの機械鎧の腕も足も。ロイは目眩がしそうなほどの昂揚感を堪えると、頬から首筋、胸元、脇腹…中心へ、と視線を順に下に落としていく。
(少し痩せたか)
引き締まってはいるが元々線の細い子だったなとロイは思い出す。だがこの1年の間に更に線が細くなったように思う。不憫さと切なさと愛しさと、それらがいちどにロイの胸を支配した。
「…ッ、じろじろ見んなよッ!」
黙って視線を落とすロイにエドワードは抗議する。潤んだ金色の目元に恥らうような拗ねるような表情が垣間見える。ならば、とロイはエドワードの胸の突起に手をかけた。掌で軽く転がすと、それはぷっくりと膨らんで、桜色の輪の上ではちきれそうに勃った。ロイは指でつまんできゅっと根元を擦った。
「うっ…」
途端に声が漏れ、エドワードの手がシーツの上を行き来し始めたのを見たロイは、今度は突起を口に含ませ、もう片方は空いた手で強く擦り上げた。
「あっ…やっ、痛っ!ロイっ…!」
強い刺激を痛みと感じたエドワードが、本能的に身をよじり始めたが、ロイは止めるつもりは無い。何度も吸い上げ、転がし、きゅっと擦り上げ続けた。疼く痛みに、覆い被さり自分の胸を弄り続けるロイを、エドワードは思わず両手で引き剥がそうとする。
「やっ、い、痛、ン、痛いッ…!っ…アァ…ア…アァ…アッ…ア……」
やがて苦痛の声は羞恥の声へと変わっていき、エドワードは数回背中を反らす。ロイはそのまま片手だけを下へと這わせた。手探りで触れた、形を成した中心は、先端からゆるゆると溢れ出た滴ですでに自身を濡らしていた。手で握りこむと、先ずは先端を丁寧に扱いてやる。それから裏筋に沿って指先を何度か上下させ、空いた指の腹で根元の二つのものを不規則に揺すってやる。すると掌の中で更に硬度を増した。
ロイはエドワードに肉体の記憶を起こそうとしていた。私の愛撫を覚えているのだろうか。長らく空白だった快感はエドワードの身体を固くしているのではないか。そういう不安がロイの頭を翳めていたから。
大きな手できゅっと握られエドワードは短く叫んだ。するとロイは顔を離し、今度は大きく足を割り開いた。 細くしなやかな右脚、灰色に無機質に存在する機械鎧の左足。
大きく開いたその間に、ロイはエドワードとは比べ物にならない軍人の躯を割り入れ、顔を埋めた。
(こうすればこの子は達してしまうはず)
「あっ!ん…は…ッ…ぁ…ん…アァ」
ロイの熱い粘膜に自身を含み取られ、エドワードは下腹部を跳ねさせた。濡れた熱が絡みつき、ちろちろと先端を嘗められ、吸われ、目の前が白くなる。その間にもロイは胸から手を離さない。つぎつぎと与えられるものに自身がどんどん熱く弾けそうになるのが分る。間もなく奥からやってくるものに大きく煽られ、爪先にぐうっと力が入った。
「…ロイ、ロイっ!アッ…!」
声と同時にエドワードは呆気なく達した。
ロイはエドワードの放ったものを嚥下すると、股間から僅かに顔を上げて上目使いでエドワードの表情をそっと窺う。軽く伏せられた目元には涙が溜まり耳元までの白い筋も見えた。乱れた息を吐く唇からは舌が気だるげに先端を見せていた。
「エド、これからだろう」
思った通りに呆気なく吐き出した少年に優しく声を掛けると、ロイは間を置かずにエドワードの身体をうつ伏せにし、今度は腰だけを持ち上げた。
「あっ…や」
エドワードが恥ずかしがるこの姿勢。ロイは記憶を辿る。なんでも視線を痛いほどに感じて身の置き所が無いからだ、何をされているのか感触でしか分らないからだ、以前無理矢理聞き出すとエドワードは俯きながらそう言っていた。それでも膝をつかせて脚を大きく開かせると双丘の奥の秘部が現れた。ロイは掌で内腿から尻を撫でて肌を味うと、秘部を両手で左右に押し開いた。そこはまだ固そうに更に奥の部分を隠そうとする。数え切れないくらい自分と繋がった密やかなその場所にロイは見惚れていた。
(…あ……)
痛いほどの視線。それは高く上げさせられた腰から、背中を伝って転がり落ちてくるように感じられる。だが酷く恥ずかしい筈の姿勢も今夜は違う気がする。意識の奥には、ロイの視線を存分に感じて疼きたいと望む、狂おしい自分がいる。シーツに顔を埋めて耐える甘い甘い羞恥。視線の先の自分を想像し、先ほど放ったばかりの自身がまたふるんと揺れて徐々に張り詰めていった。
ロイは開いた箇所を指先で撫でた。なんども、なんども、ていねいに、愛おしみながら。エドワードが僅かに腰を揺らす。見るとエドワードの先端からは滴がまた溢れ出しており、滴は小さな音を立てながらシーツに沈んでいった。ロイは双丘に顔を埋めると唾液を絡ませた舌先をちゅぷりとそこにあてた。エドワードが甘い悲鳴を漏らす。舌先で穿ちながら周りへ奥へと十分に揺らしてやると舌先の味が変わった。エドワードが襞の奥から蜜を加え始めたのだろう。水音を聞きながらロイは緩んだそこにつぷりと指を埋めた。エドワードの背中が大きく反る。辿り付いた小さな突起をゆるゆると擦ってやると甘い悲鳴はさらに大きくなったり、埋める指先を増やすごとに、悲鳴は淫靡なため息に変わっていった。
「ふぁ…あ…ん…んッ……はッ…はぁ」
意味の無い言葉が、繰り返し、繰り返し、唇から落ちる。口一杯に涎が溢れ、糸を引いてこぼれ出す。指が動かされる度に、己の内腿が熱く震え、滴をぽたぽたと沈ませる。その淫らな恥ずかしさにエドワードは更に身体を熱くした。ロイ自身ももう痛いほどに張り詰めている。エドワードが淫らに腰を振る度に、その先端は触れた肌に滴を撒いていた。
「ッ…ロイ…」
更なる熱さを望んで、シーツの隙間からエドワードが顔を覗かせロイを見る。熱に浮かされたような金色の瞳。ロイは頷き、指を引き抜くと、もうたっぷりと蕩けた後穴に熱く猛った己の先端を中てた。
己に手を添え、もう片方の手はエドワードの腰をしっかりと捉える。が、お互いの蜜のせいだろう、一度はぬるんと先端が滑った。ロイはもう一度捉えなおすとゆっくりと腰を進める。
…感じる。ロイが自分を押し広げるのを。もうひどく敏感になった後に、柔らかい先端の感触を捉えてエドワードはぎゅっとシーツを掴む。途端に、記憶が、ロイの熱さと固さと同時に、これから始まる苦痛と快楽を脳裏に蘇らせた。

そしてロイが一気に腰を進めた。
「…あぁァッ!!…ッ」
突き入れられた熱の衝撃にエドワードは悲鳴をあげた。記憶以上の圧迫感にしばし息が詰まる。それを見て取ったのかロイの動きが止まった。が、エドワードの息が整うと再び穿ち始めた。エドワードの内襞がきゅうっと絡みつき、ロイも息が乱れる。熱く激しく優しく柔らかく、そして懐かしいエドワードの内部。自分だけの場所。ロイは手を回してエドワード自身を握りこむと、また扱き始めた。
「…ん……はっ…は…ッ…ぁ…ん…ふ…ひっ…ふ…」
内襞の場所と同時に自身を捉えられ、エドワードは身を捩って涙をぼろぼろ零す。もう堪らなくて堪らなくて。もっと欲しくて欲しくて。嬌声にまみれる自分自身に悶えて、どんどんどんどん渦の中心に落ちていくような錯覚。渦の底からロイの大きな手が自分を引っ張る。苦しくて浮び上がりたい、けれど本当はもっと落として欲しい。引き摺り込んで欲しい。容赦なく溺れさせて欲しい。
…淫靡な渇望の果てに、渦の底が白く弾けた。
「…ウァッ…!」
途端に内襞が激しく痙攣し、その収縮に限界を超えたロイは、エドワードの内部に一気に放った。

―――乱れた息遣いがしばらく絡んだ。
ロイは繋がったまま背中に覆い被さると、片手でエドワードを抱きかかえベッドに沈んだ。
ロイはエドワードのうなじに張り付いた髪を優しく剥がしてやる。
「ロイ」
エドワードは小さく呼ぶとその手を取って前に回すと自身の上に置き、手をそっと重ねた。うしろからはエドワードの表情は伺えない。それでもロイは驚きながらも掌に収めてやる。放ったそれは力を無くしていたが、エドワードの望むものは伝わった。 愛しさで目眩がしそうだった。
そして、一度エドワードから身体を離すと深いくちづけを交わし、再び脚を開いて顔を埋めた。




(…………)
真夜中、ロイはふと目が覚めた。小さく鳥の鳴き声を聞いたように思った。
弱い灯りの中、部屋を見回し、ああ、ここはエドワードのホテルだったとロイは思い出す。 それほど夢中だった。一体どれくらい求め合ったのか。 体を横たえたまま脇を見るとエドワードは安らかな寝息を立てている。自分のもとに帰ってきた少年の髪に触れながら、ロイは今の幸福を知った。
(あれは、何という鳥だった…?)
ここは街中なのに。きっとこれは充足感がもたらした夜の夢なのかもしれない。幻聴なのかもしれない。エドワードの甘美なため息のようだった。そうだ、夜が沈んでしまうまでにまた夢を見よう。
―――ロイはもう一度目を閉じた。





- END -


なんか…何を書いたんだか…疲れた…スミマセン。精一杯です。精進します…(汗)
よろしければ感想頂けると嬉しいです。今後の参考にしますので。 04/11/03


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