ひとつ屋根の下       エドワードとホーエンハイムの話

≪おことわり≫  アニメ最終話からの妄想捏造品。
シリアスなんだかそうでないんだか。ある意味ホームドラマ。心の広い方向き。






「エド、エド、ほらっ、起きなさい」
1920年代のミュンヘン、中心地に程近い住宅の一室。 ホーエンハイムは今朝も息子を揺さぶっていた。
「今日は研究発表会がある日じゃなかったのか。遅れるぞ」
「…う、う〜ん」
エドワードは散々揺すられ、ふわーと大きな欠伸をして体を起こす。尻をぼりぼり掻きながら、身支度を終えると やっとテーブルに着いた。
「オヤジ、コーヒーちょうだい」
相変わらず親を親とも思わぬ、尊大な態度の息子。それでもホーエンハイムは、ほら、とカップを息子に差し出す。
「アンタ、今日は講義があるのかよ。時間があったら聞いてやってもいいけど」
「私は今日は午前と午後に講義がひとつづつだ。エド、お前の発表会は午前中だろう。午後の講義にくるといい」
「分った。そうする」
パンケーキを口に押し込み、コーヒーを飲み干すと、エドワードは、じゃ、先に行くぜ、と立ち上がった。

「おはようございます、博士。」
朝の光の中、道行く学生がホーエンハイムに声を掛けていく。エドワードとさほど変わらない年頃であろう。 友人同士談笑しながら歩く若い学生を見るとホーエンハイムはちくりと胸が痛む。
(私のせいであのこにはこういう時代がなかったのだろう)
自分が失踪した為に幼い時から苦難の道を歩ませ、ついにはこちらに来るはめになってしまった。 そう思うと自分はついついエドワードを甘やかしてしまう。
いや、それはそれで楽しいのだが。


「おはよう、エルリック君」
「…おはようございます」
見た目は礼儀正しく丁寧に挨拶を返しながら、ああ、朝イチでいきなりコイツに会っちまったか、とエドワードは心の中で舌打ちをした。
エドワードはホーエンハイムの伝手を頼り、物理学科学研究所員となっていた。
不本意だが、こちらの世界には父親以外寄る辺がない。向こうに限らず何処の世界でも、保証人のいない未成年はいくら優秀でもまともな仕事には到底ありつけないから。だからといって父親に全てを委ねるのはエドワードのプライドが許さない。
手法は違っていても科学者という点では国家錬金術師の頭脳はおおいに役立った。が、研究所の教授でエドワードの上司にも当たるこの男、フェルトは、初めは親切だったのだが、エドワードのずば抜けた頭脳と発想を知るにつれ、自分の地位を脅かされるのではないかと次第にエドワードを嫌うようになったのだ。実際エドワードは上からすでにセカンドを打診されている。
今日も研究発表にねちねちとツッコミを入れるに違いない。解ってねぇくせによ。
(…オレはなんか上司運が悪い気がする)
ええと、向こうでもしょっちゅうオレにちょっかい出す奴がいたっけ。でもそいつはフェルトみたいには嫌な奴じゃなかったな。なんか、こう、すっごく懐かしいような。
…あれっ、誰だっけ…?誰だ
あーイカン、またわかんね―よ、と、エドワードは頭を抱える。


「あの、発表会が終ったら、大学に行っていいですか。オヤジ、じゃなくてホーエンハイム博士の講義を聞きたいんですけど」
コイツはうるさい。いちおう許可をもらっとこう。


コンコン、とノックの音がして研究室のドアが開いた。金色の頭がひょいと現れる。
「や、来たのか、エドワード。少し早いな」
「…講義は一応興味あるからな。聞き逃したくないし、学生の意見も聞けるし」
素直ではないが一応自分の説に関心をもってくれたと考えるべきか。ホーエンハイムは身を乗り出す。
「家でもう一度お前に講義してもいいのだよ」
「それじゃアンタの研究時間が減っちまうだろう。好かねぇアンタに借りを作んのはヤダ」
この息子はこういうことを口にする。とりあえず一緒に暮らしているのだから以前ほど嫌われてはいないとは思うのだが。ホーエンハイムは苦笑する。
「借りって、エドワード、お前のルールは未だに等価交換なのかい」
「アンタだってそうじゃねぇのかよ。錬金術師のくせに」
エドワードは、金色の頭を揺らして不服そうに唇を尖らせ、父親に突っかかる。
世界が変わっただけで科学の手法がこうも違うものだろうか。どこであろうと錬金術は錬金術のはずなのに。何故使えないのだろう…
「それはそうだが。だけどね、エド、どうもこっちじゃ使えないみたいだよ。解っているだろう」
息子の機嫌を損ねないように柔らかく諭してみる。途端にエドワードは顔を伏せる。諦めきれないのだろう。 こういうところがホーエンハイムには不憫でたまらない。そして純粋で可愛いとも思う。


「…さ、そろそろ講義を始めるぞ」
ホーエンハイムは教壇へ、エドワードは学生と一緒の席に着く。 教壇から見ると、エドワードは目立つ。大変目立つ。親の欲目を差し引いても綺麗な子だと思う。周りの人間がちらちらと視線を送っているのが傍目にも分る。
こういう時の自分は複雑だとホーエンハイムは感じる。当人には不本意な形でも、折角自分の側にいるようになった息子に、友人や恋人を作って欲しいと思う半面、必要以上に関わりを持たせたくないとも思う。息子のことはまだまだ知らない事が多い。だからまだ他人に持って行かれたくない。
…これは父親の勝手な独占欲なのだろうか。講義をしながらホーエンハイムはそんなことを思っていた。あのこはわたしのものだ、と。







☆…なぜかこういう話を書いてしまいました。すいません、続きます。
 04/10/04初回UP 04/12/15加筆UP



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