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午後。 時折吹く風は、湿気を含んで生ぬるく、肌にべったりと纏わりつくようで、気休めにもならない。 屋根の高い駅構内といえ、それは例外ではなく、列車を待つ人たちは、暑さに耐えていた。 そして、1時間遅れの東部からの列車が、ようやくホームに入った。 いや、車内が暑くて参ったよ。ほんとね。 乗客たちは皆いちおうに、到着遅れのへの不満を、暑さへの愚痴に替えてステップを下りる。 その中に、ひとりの青年が、少しふらつきながら下りてきた。 青年というにはまだ子どもっぽく、少年というにはやや大人びて見える。 長い金髪を後ろで一つにまとめ、長袖のシャツを着ている。 その仕立ての良さそうなシャツと共に麻のベストとズボンといういでたちは、品の良い良家の育ちを思わせる。 気分が悪いのか、俯き加減だが、白い肌の整った顔立ちと、長い前髪の間から見える金色の双眸が印象的だ。 ホームに降り立った青年に、周りにいる女の子たちは、 「ねえ、ほら。あのひと。」 と、ちらちらと見ながら、ささやきあっている。 青年は難儀そうにトランクを抱えると、空いたベンチを探し、腰を下ろした。 「…おえーっ、1年ぶりに列車に乗ったら乗り物酔いかよ!コンチクショー!!まったくホントに情けねーぜ! …うえっ」 口に当てたハンカチの隙間から発せられた言葉は、青年のその風貌には、まるでそぐわない。 さっきの女の子たちが聞いたら、『その筋の人』と思いかねない。 青年はしばらく座っていたが、やがて、トランクを持って立ち上がり、さっきよりは軽い足取りで改札に向かっていった。 「建物は見えてんだけど、えっと、確かこっちでよかったよな。」 頼りなげに向かう先には、巨大な建物が見えた。 「すみません、あの、この人に会いたいんだけど。」 青年の差し出た名前を見た係はややあって答えた。 「ただ今会議中でいらっしゃいますよ。もう終るはずですが。」 ご用件ならお取次ぎしますが、と言われたのをやんわりと断り、彼はそのまま廊下で待つことにした。 廊下に佇む見慣れない青年を、行きかう人のほとんどが、ほう、と感嘆の声を漏らしながら通り過ぎていく。 やがて。 聞き覚えのあるちょっと癖のある靴音がして、青年が顔を傾けた。 待ち人のその姿を見つけて彼は破顔する。 そして不敵な少年の顔になって声を掛けた。 「よっ、アンタ、久しぶり。」 |