----- F u t u r e  〜 Another Story -----


◆  Prologue 〜 南 風 午 後  ◆



「…は、鋼のッ!」
声を掛けられた黒髪の男が、その驚きを喜びに替えて駆け寄ってきた。
そして、青年の肩を抱きしめ、何度も何度も名前を呼ぶ。
「…鋼の。いや、エドワード、エドワード、エドワード、エドワード…」
その男の着衣の様子から明らかに見て取れる地位が、そして男の顔を知っている人も相当いるのだろう。
廊下を行く人がいちように驚いて立ち止まって二人を見ている。
「なぁ、通る人がみんなこっち見てんだけどさ。アンタ、いいのかよ。」
おっとすまない、と笑いながらも悪びれた様子は全くなく、多数の見物人を尻目に手を取って歩き出す。
「近々来るとは思ってがいきなりだな。連絡くらいくれたまえよ。さっきは息が止まりそうになった。」
「びっくりさせようと思ってさ。」
「…元気そうだな。良かった。」
エドワードは、へへっと照れくさそうに笑った。
「こっちだ。皆にも会うだろう?」
「うん、それも楽しみにしてた。」


「あ、会議は終りましたか、中…、あ?エド?!お、お前、エドかよっ!エドっ!!」
それを合図かのように、室内の人間が一斉にこちらを見る。
「エド!」
「大将!」
「お前、来たのかよ」
エドワードという名前を聞きつけて、皆が声を掛け、側にやって来る。
その歓迎ぶりにようやく顔を上げたエドワードは、入ってきた女性と目が合う。
「…あ、…ホークアイ…」
「エ、エドワードく…ん…」
あとは声にならない。冷静、と評されるこのひとが眼を潤ませている。
そしてエドワードも。


午後遅くになってから、空気はようやく湿度を落とした。
窓から入る風は、さらさらと心地良い夏の南風になり、エドワードの金髪を揺らしていく。
大きなソファに座ったまま、デスクで書類に目を通す男に話しかける。
「なあ、また上がったの。さっき中将って呼ばれてなかったっけ?」
男は顔を上げずに返事をする。
「今はまだ少将だ。正式に中将になるのは来月からだ。」
「大して変んないだろ。あと半月も無いんだから。すごいなぁ。」
エドワードは嬉しそうに笑う。
「これが片付いたら今日は早く帰れる。もう少し待ってくれ。」
「やっぱり連絡すればよかった?オレ、迷惑だったかな。ごめん。」
しゅんとなってエドワードは俯く。
「バカな。」
男は笑った。


夕方近く、男はデスクを整理して立ち上がる。
「これを副官に渡せば今日はこれでよい。」
「それって、アンタ以外は残業かよ。酷いなぁ。」
いいの?オレ、そんなんで恨まれんのはヤだよ、と少し遠慮がちにエドワードが首をかしげる。
「構わん。今日はなにをしてもきっと大目に見てもらえそうだ。」
片目を閉じてみせ、そういって先ほどの部屋に繋がるドアを開ける。
そして仕事をしている部下たちに告げる。
「すまない、今日は先に帰らせてもらうよ。」
「ええ〜〜!」
「そりゃないですよ!少将ひとりだけなんて!」
上官に対するものとは思えない言葉で、あちこちから抗議の声が上がる。
「…その、ダメなのか?」
高位の上官は、思いがけない部下の抗議に、困った顔になって立ち止まる。
その様子にホークアイが微笑みながら言う。
「今日は仕方ありませんね。でも、明日は私たちにもエドワード君を貸してくださいね。」
抗議の意味はそういうことだったのだ。
エドワードは少し照れくさそうに頬を赤らめた。




青年はエドワード・エルリック。
男はロイ・マスタング。
二人は一年ぶりに再会した。




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