藤壺よもぎさま作 : 春爛漫の美しい世界をお楽しみください。 瞳を開ければそこはむせ返る春のにおい。 ひらりひらりと桜が舞い、淡い白に視界を埋め尽くされる。 目を閉じてもその風景が焼きついたかのように離れない。 白昼夢のよう。 波のように引いては押し寄せる眠気に、意識をゆだねてみる。 やはり白昼夢のようにいやにリアルな夢とも幻像ともつかぬ光景。 情景。 どれほど長い時間ここにいるのだろう。 いい加減戻らねば自分の部下がやきもきしながら探しているだろうに。 それすらもどうでもいいほど、心地よい。 目を開けているのか、閉じているのか、眠っているのかわからない。 ざわざわと風が凪いで、花びらがしずかに降る。 ふと、何気なく伸ばした手の先が暖かな感触に触れた。 それはよく知っているぬくもりで、いとしい温もり。 帰ってきていたのか、とか、どうしてここに、とか野暮なことは聞かない。 ここにいてほしいと望んだから。 さらりとその金の髪が手に当たった。顔を見上げているのに、顔は見えない。 これも、自分が望んだだけの白昼夢だろうか。 ただの幻だろうか。 それとも、現実だろうか。 桜舞い散るなか、君はずっと私のそばにいてくれた。 手のひらの下の頬は、きっと緩んで、微笑んでくれているのだろう。 暖かい、やさしい温もり。 頬から手をすべらせて、首の後ろに当てて。 と、ふわりと風をまとって影が降りてきた。 視界が暗くなる。そして自分の頬に柔らかな髪がすべる。 名前を呼ぼうとした唇を、その唇でふさがれ、そっとまた離れていく。 捕まえようと手を伸ばしても、するりとかわされて、またじっと見つめられる。 体が動かない。意識が朦朧としている。でも君がそこにいる。 これは現実でも幻でもないのだろう。 満たされていく、幸せ。 終わることない白昼夢を、ずっと見ている。 さくら、舞い散る。 |
私は彼の手を引き寄せた。 彼は何も言わずに黙って私の胸に収まる。 いとしい。 ただ、いとしい。 抱きしめたい。そして抱きたい。彼の奥へと。 私は彼の華奢な躯を抱き寄せて、花降りしきる若草の上へと導く。 彼は目を伏せて金色の双眸を隠す。 これから私がすることを受け入れてくれるのだろう。 私は腕を回し彼の唇を奪う。 降りしきる花びらが私と彼の上に天幕をつくる。 私は彼の胸元を開いた。 白い肌のうえに、ふたつのひそやかな突起。 桜色のふちどり。 私はそれにくちづける。そっと。 さやさやと触れる花びらに混じって、彼の微かな声が私の耳に届き、 ひそやかな突起は桜色にぷっくらとはちきれる。 いいかい、と問う言葉に返事は無い。 ただ私の手に触れる指先。 身に付けたものを解かれていく彼。 胸も、そして、腰も。 すべてが晒される。 私はそれを見つめる。 舞うさくらが、時折、隠そうとする。 一つに繋がる私と彼を。 そして。 若草とさくらの上には、彼が流した僅かな朱色。 頬をつたう、痛みに流した涙。 さくらが舞って、それを隠した。 ―― なあ、知ってる? 桜の木の下には、死体が埋まっているんだよ。 彼はそう言って泣き笑いする。 切なく、儚く、美しい彼。 私は狂ったように彼を抱きしめた。 ただ、いとしくて。 いとしくて。 |
すいません、すいません、すいません・・・