もって帰ってくれるという心が広い方・・・。おられるだろうか(涙)
おかしな二人
いっておくが。これは定期連絡である。
そういちいち定義つけて電話する自分も自分でどうかしている。何も考えないで、覚えた番号叩いて、他人行儀であいつを呼び出して。今どこにいて、何しているって、言うだけ。それだけ。
たった5分もかからない。金だってそうかからない。それを我慢すれば、帰ってからのあの皮肉や嫌味や報復と言わんばかりの報告書の訂正だとかで時間を取られない。次に旅に出るのだってあっという間にできるだろう。
いや、むしろあいつじゃなくて、中尉に報告して伝えてもらってもいいじゃないのだろうか。
あ、でもそうしたらあいつの立場がどうとか、自分が今置かれている身分とか、長ったらしい説教が始まる。年をとると饒舌になるっていうけど、余計な話が長いんだよ。少年老い易し、学成り難しっていうじゃないか。
若いときは時間が惜しいんだよって、何度その話を中挫させようと試みたことか。でも、余計長くなりそうだから言わないで聞いたふりして流していく。それがバレると、待たせている弟のうんざりするため息が耳元で聞こえだしそうに、また話が長くなって。肩が凝る。気が張り詰める。なんだってあいつはこうも俺に絡んでくるのか。
いちいちムキになるからだろうか。からかわれる星の下に生まれたのだろうか。人選を間違えた。いや、もうどうしようもない。こうなるなんて思いもしなかったんだけどなあ。
ため息ついでに受話器を握る。だが、持ち上げようとしても、その受話器が重りを抱えたようにして持ち上げるのを拒んだようで。腕が上がらない。何で緊張するんだろう。と。硬貨を握り締めすぎて、形が変わってんじゃないかと、一度確認した。ちゃんと丸い形だ。間違いない。
だから、これは、ただの定期連絡なんだって。
声を聞くのが怖いのか、何か言われるのが怖いのか。忙しいのに邪魔して怒られないかと思うのか。 どれでもなくて、どれでもだ。思いつく限りの理由を並べてみる。どれも今の心境にふさわしくない。
5分。長くて10分の辛抱だ。これから旅して、戻って、あいつの話に比べればなんと短い。
電話がダメなら、手紙でもいいか。とりあえず所在さえ知らせておけば何も言われまい。いや、言う。
必ず宿先か近くの軍の詰め所になぜか電話がかかってきて、手紙の内容に文句をご丁寧につけてくる。お暇なんですか、と聞いてやろう。そしたら。中尉がきっと銃を向けているだろうに。
だから、5分、5分だけ辛抱すればいいんだってば。
幾度も自分に言い聞かせてきた言葉。今日こそは報告しないと。だってこの数日、同じように電話の前に立って何度ためらって、また明日、と繰り返してきたのかわからない。別に、旅を始めたころはなんて抵抗がなかったはずだろう。当たり前のように、まあ、気まぐれ程度に居場所と状況を報告するぐらいだったんだけれど。
そしてそこで嫌味と労い?の応酬。息抜き代わりに使われていたんだろうけれど。それでむかつくけれど、楽しかった。何より、必ず最後に、『無事に戻ってこい』といわれるのが嬉しかった。戻る場所。今持たないけれど、仮初であろうけれど用意されている居場所があるって。
そう思うと受話器が軽くなりそうなんだけど。声を聞くのが、しゃべるのが、緊張してしまって・・・。なんだってこう意識してるんだろう。ああ、そうだ。いや、気にすることではない。気にしているけれど。
ため息をつきながら、ポケットに小銭を突っ込んで電話ボックスを出る。弟に行ったら、また?とあきれられるだろう。そして同じように、別になんてことないじゃない、と言われる。結局弟から中尉に連絡してもらって、後々大目玉をくらうはめになるんだけれど。
便りがないのは、元気な証拠。そう、そういうことにしといてくれ。遠い東の空の向こうに投げかける。後々、やっぱり電話をかければよかったかな、と淋しくなってしまうけれど。でも、どうしても、長らく電話をしていなければ、彼が心配して探さないかな、とか期待してしまう。そう思ったら余計淋しくなる。なんだってんだろう。
あきらめたらいいのかな。こんな気持ち。・・・でもなあ。
ため息すら雲になりそうな、真っ青な空を見上げる。
「電話?いいえ、ありませんでしたよ」
会議から早足で戻ってきたロイの開口一番が電話の有無。誰から、とは言わずしても有能な部下には誰からの電話を待っているのかなんて、溜め込んだ書類の量と同じぐらいわかりきっている。だからため息もつく。
「ちゃんとかかってきますから。書類進めてください。催促の電話なら数えたくないほどかかってきていますから」
びし、と書類に囲まれたロイの机を指差して、冷ややかに。リザだけでない。他の面々もじっとロイを見上げている。さっきから決済待ちの書類の催促の電話が鳴り止まないらしい。会議ですから、とか、今片付けていますから、とか必死で頭下げて。恨みながら。
「まったく・・・どこをどうしたらここまで溜めれるのか・・・・・」
ぶつぶつとリザが言いながら自分にも回された書類を片付けはじめる。だから犯罪や事件が増える春は嫌なんだ。
会議での頭が腐った上どもの、ロイへの嫌味の応酬を、笑顔と皮肉でかわしてきたために、機嫌は最悪、頭も回転しきって止まりたい、休みたいと言っている。そこにもしも彼からの電話があれば、と心待ちして戻ってきたのだが。 彼と話していると、気がまぎれるというか。鬱憤晴らしとでも言おうか。自分の言葉一つ一つに反応して、おもしろいほど素直な反応をしてくる。笑ったり、怒ったり、あきれたり。高等な嫌味にこれまた学がなきゃ返せないような嫌味で返されては感心することもあるし。少年ながら、自分と同等にしゃべれるのは、彼ぐらいだな、と思って会話が楽しくなっていた。多分彼は、電話するたびに聞かせられる自分の嫌味・皮肉が嫌で電話を渋っているのだろう。
その分、戻ってきたときはたっぷりと会話に付き合ってもらうのだが。(会話と思っているのはロイだけらしい)
だが、定期報告をしなければ、嫌々自分に付き合うことないのに、どうして彼が電話をしてこないのは不思議だ。嫌そうな顔で、せめてもの労いとして、リザが入れてくれた紅茶やジュースを黙々と飲んで、自分の話を聞いてくれて、返してくれる。(たまに聞いてないときは説教になるが)
真っ直ぐ、冗談も本気も話せる相手。エドだって、弟以外とそういった話をするのが苦手だと言っていたが、少しずつ自分にまじめな話をするようになっていた。自分の考えを表に出すのが苦手な子だと、そのとき思った。 不器用だけど、芯が強くて、素直で、強い。
彼と話していて、人生を語りたくなるし、はっとさせられることもある。有意義な時間を過ごさせてもらっている。 多分、彼は自分に合わせて疲れるだろうが。
ふっと笑いながら、催促された書類を進めていく。別に私のサインがなくてもいいじゃないか、といった書類にうんざりしつつも。どこかの誰かがどうした、といった報告書を上の空で読みつつも、意識は電話に向けられて。
こちらから電話したら心底嫌がる。手紙も出さない。一言、どこにいるってだけで安心するのに。
ぼーっと書類を薦めている上司を横目に、ハボックとリザがそっと話しはじめた。
「・・・もうどんぐらいすかね。」
「ちょうど2ヶ月かしら。エドワードくんたちが旅に出てから。」
「いい加減にしてほしいっすよ・・・。電話ないだけで、あんな腑抜けになってもらっちゃ」
「心配なのよ。どうしているか、とか。どこにいるかとか。多分エドワード君も、大佐を気遣ってか、嫌味が嫌で電話しないだけだろうけれど」
「別に便りがないのが元気な証拠っていうでしょうが・・・。大将のことだから、いきなり帰ってきて、ばたばたと出て行くだけでしょう。子供だから、心配なんでしょうけど」
「エドワード君だから、心配してるのよ。大佐は。」
「はい?大将だから?」
「そ。で、エドワード君も、大佐だから電話しないのよ」
「はあ?」
「・・・・ったく。二人とも・・・」
それからリザが書類に集中してしまった。ハボックは何のことやらさっぱり、といった面持ちでタバコを吸い上げる。
どうして、電話をしない、電話がないでここまでになった経緯を全て知っているのはリザだけ。アルも誰も知らない。
それは、本当に、いつもの定期連絡をしてきたエドからの電話を大佐に繋いだときだった。春の初めごろだったろうか。いつもどおり、どこにいて、どうしていると会話をしていたようだが、ちょうど暇をもてあましていた大佐の世間話と嫌味と皮肉が繰り広げられて。時折リザにもわかるほどのエドの怒号が聞こえるときもあった。
そこで、多分エドが、こんな電話だったら、もうしないとか、する必要ないだろう、とキレたのだろう。大佐が真剣な顔をして、君にはその義務があるとか説き伏せていた。そして、一言。
「私がどれほど君を心配しているかわからないだろう」
私にもわかりません、とリザが突っ込みしたかったぐらいだ。電話があったり、本人が来るたびのあの態度では。
ひねくれた大佐だね、と思っただろう。エドも、リザも。それからいくらかやり取りがあって。
「離れているからこそ、君が気になる。電話でもいいから声が聞きたくなるものだ。私への労いだと思って定期連絡ぐらいはしてくれたまえ。エディ」
突然言い出した誰も呼ばない愛称に、リザは悟った。そういった関係だったのか、と。いや、疑いは前々から持っていたから確信しただけだったんだけれど。
それで電話が勢いよく切られたらしく、受話器を話して、優しく笑っていた。なんて不器用な二人なのか。
まともに、淋しいから電話してこい、とか言えばいいものを。相手が手練な女性だったら嬉しいだろうけれど、未だそういった経験もない15歳の少年だ。犯罪にも値する。通例のそんな関係だったら信じられないほどドライだ。
二人で過ごす時間などまったくないだろう。いや、向こうがそうするものだとわかっていないと思う。けれど、向こうも大佐に対して少なからずそういった感情を持ち合わせているのなら、そうするかどうか迷うはずだ。
ただの、親友なのか、それ以上なのか。でも、このしばらくの腑抜けぐあいだったら納得いく。
桜は散った。かなり時間が経った。この気持ちをそっと投げ出してしまえば楽になるだろうに、できない。 相手の心が見えない。わからない。それでも自分に向いているとはわかっているから止められない。 苦しいけれど、楽しい。
二人の間で繰り広げられている、どちらが折れるかの駆け引き。あの大佐すら振り回すエドの初心。それに振り回されて楽しみながら苦しむ大佐。散々迷って、悩んで天然で振り回すエド。
この世で、こんな気持ちにさせるのは、お互いしかいないと、どこかで自覚する五月晴れの空の下。
END
言い訳 感謝とお礼を同時に込めさせていただきました。それでも、なんですか。両思いですか。はっきり付き合ってるんですか、その一歩手前なんですか。なんなんですか。このあいまいさ。どうしようもありません。こんなんでも、せめて日ごろから救われていない二人を救いたかったんです。その心意気だけ受け取ってください。
テーマは、尊敬し、今でも聴いて聴いて愛するユニコーンの同曲です。なんか違う気がしますけれど。 10000HIT、本当にありがとうございます!!!!!!藤壺よもぎ |