----- F u t u r e  〜 Another Story -----




◆  小 夜 千 鳥  ◆





1年ぶりに再会したエドワードを連れて、ロイは司令部を出た。
ロイは仕立てと品の良い夏のスーツに既に着替え、パナマ帽を被っている。
衛兵が、若き少将と金髪の青年の組合せを、珍しげに敬礼で見送る。
まずは食事に行こう、落ち着ける店を見つけたから。トランクを貸したまえ。
「えー、少将閣下に鞄持ちさせるのかよ、オレ。」
エドワードは躊躇うが、ロイはお構いなしにトランクを持ち、歩いていく。
少し歩いて、小さいが小奇麗な店についた。
「いらっしゃいませ、マスタング様。」
ロイはすでにこの店の馴染みらしく、荷物を預けると、二人は奥まったテーブルにていねいに案内された。
「相変わらず、こういう店、見つけるの上手いよな。」
エドワードは子どものようにきょろきょろと辺りを見回す。
「…エドワード。」
席についたロイがエドワードの顔をしみじみと見つめる。
「よく戻ってきたな。ずっと待っていた。」
テーブルに置かれた蝋燭灯に照らされたロイが小さく言う。
再会の嬉しさと待たされた者の切なさを含んで、僅かに影を落としている。
その灯りの加減なのだろうか、見詰める黒い瞳が、揺らめいて、そして微かに潤んだように見えた。
無言でゆっくりと手を伸ばし、エドワードの白い頬にそっと触れる。
壊れ物を扱うようにおずおずと。
幼子に触れるように愛しげに。
エドワードは目を伏せてそれを受けた。


「お、食事が来たようだ。」
さあ、食べよう。私はお腹が空いたよ。会議で昼食もろくに食べられなかったからね。
そう言ってロイは食事をすすめ、自分も食べ始める。
時折、エドワードの姿を見やる。
「その服、よく似合う。」
ロイが柔らかく微笑む。
「この服、アンタが選んで送ってくれたんじゃないか。すごくいい。上等なんだろな。手元にろくな服なかったから助かったよ。サイズも合ってるし。でも何でわかんの。」
「あいつに報告ついでに、君のサイズを調べておけと言っておいたからな。」
「そうか、オレの担当はアンタの友だちだもんな。って、全部報告済みかよ。」
それってなんかヤな気もするんだけど。エドワードが口を尖らせ抗議する。
「だって私は君の後見人でもあるんだから、それを知るのは仕方ないだろう。」
辛い時もあったがね、とロイが静かに紡ぐ。
そしてふとエドワードの手元を見て気付く。
「…なんだ、殆んど手をつけていないじゃないか。口に合わなかったのか。」
「え、あの、美味しいけど。ごめん、せっかく連れて来て貰ったのに。」
「どうした。」


ロイが訝しげに顔を覗きこみ、そして思い当たったように訊ねた。
「もしかして、具合が悪いのか。」
「う、ううん。なんでもない。」
エドワードが僅かに目を逸らす。
「正直に言いなさい。」
「…ごめん、1年ぶりの列車で乗り物酔いしたんだよ。きっとそのせいだよ。ちょっと気持ち悪いだけ。」
「それをずっと我慢してたのか。君は。」
「だって大した事ないし、心配かけたくないからさ…」
「無理をして…!悪い癖だ!君は1年近く身…」
だんだんと口調のきつくなるロイに、エドワードは小さな子どものように泣きそうな顔になって俯いた。
それを見たロイは我に返る。
「すまない、私が気付くべきだったんだ。気を遣わせてしまった。」
そして、帰って休みなさい、送るから。そう言って立ち上がった。


「そこまで出れば車を拾える。歩けるか。」
ロイはゆっくりと歩を進める。
そのうち背中の気配の静かさにロイは振り向き、エドワードが後ろにいないのに気が付いた。
向こうを見やると、橋端にうずくまる人影が見え、ロイは慌てて駆け寄った。
「………う………う……」
「ひどいのか。」
ロイがエドワードの震える背中に手を置いて訊ねると、エドワードは首を静かに振った。
「エドワード?」
返事はない。
「すまない、私のせいだな。随分きつい言い方をしてしまった。」
喉の奥から声をこらえた小さな嗚咽が聞こえる。泣いているのか。
「…違う…オレが…馬鹿な…子…どもだから…間違えて使…」
「…予期せぬ事は起こるだろう。」
ロイは静かに返す。
「さ、行こう。立てるか」
ロイはエドワードの右手をとって立たせた。
エドワードの膝がきし、と軋み、その手をとったロイにも、エドワードの体重がかかる。
その久しぶりの機械鎧の感触にロイの心は大きく揺れた。





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