1年ぶりに再会したエドワードを連れて、ロイは司令部を出た。 ロイは仕立てと品の良い夏のスーツに既に着替え、パナマ帽を被っている。 衛兵が、若き少将と金髪の青年の組合せを、珍しげに敬礼で見送る。 まずは食事に行こう、落ち着ける店を見つけたから。トランクを貸したまえ。 「えー、少将閣下に鞄持ちさせるのかよ、オレ。」 エドワードは躊躇うが、ロイはお構いなしにトランクを持ち、歩いていく。 少し歩いて、小さいが小奇麗な店についた。 「いらっしゃいませ、マスタング様。」 ロイはすでにこの店の馴染みらしく、荷物を預けると、二人は奥まったテーブルにていねいに案内された。 「相変わらず、こういう店、見つけるの上手いよな。」 エドワードは子どものようにきょろきょろと辺りを見回す。 「…エドワード。」 席についたロイがエドワードの顔をしみじみと見つめる。 「よく戻ってきたな。ずっと待っていた。」 テーブルに置かれた蝋燭灯に照らされたロイが小さく言う。 再会の嬉しさと待たされた者の切なさを含んで、僅かに影を落としている。 その灯りの加減なのだろうか、見詰める黒い瞳が、揺らめいて、そして微かに潤んだように見えた。 無言でゆっくりと手を伸ばし、エドワードの白い頬にそっと触れる。 壊れ物を扱うようにおずおずと。 幼子に触れるように愛しげに。 エドワードは目を伏せてそれを受けた。 「お、食事が来たようだ。」 さあ、食べよう。私はお腹が空いたよ。会議で昼食もろくに食べられなかったからね。 そう言ってロイは食事をすすめ、自分も食べ始める。 時折、エドワードの姿を見やる。 「その服、よく似合う。」 ロイが柔らかく微笑む。 「この服、アンタが選んで送ってくれたんじゃないか。すごくいい。上等なんだろな。手元にろくな服なかったから助かったよ。サイズも合ってるし。でも何でわかんの。」 「あいつに報告ついでに、君のサイズを調べておけと言っておいたからな。」 「そうか、オレの担当はアンタの友だちだもんな。って、全部報告済みかよ。」 それってなんかヤな気もするんだけど。エドワードが口を尖らせ抗議する。 「だって私は君の後見人でもあるんだから、それを知るのは仕方ないだろう。」 辛い時もあったがね、とロイが静かに紡ぐ。 そしてふとエドワードの手元を見て気付く。 「…なんだ、殆んど手をつけていないじゃないか。口に合わなかったのか。」 「え、あの、美味しいけど。ごめん、せっかく連れて来て貰ったのに。」 「どうした。」 ロイが訝しげに顔を覗きこみ、そして思い当たったように訊ねた。 「もしかして、具合が悪いのか。」 「う、ううん。なんでもない。」 エドワードが僅かに目を逸らす。 「正直に言いなさい。」 「…ごめん、1年ぶりの列車で乗り物酔いしたんだよ。きっとそのせいだよ。ちょっと気持ち悪いだけ。」 「それをずっと我慢してたのか。君は。」 「だって大した事ないし、心配かけたくないからさ…」 「無理をして…!悪い癖だ!君は1年近く身…」 だんだんと口調のきつくなるロイに、エドワードは小さな子どものように泣きそうな顔になって俯いた。 それを見たロイは我に返る。 「すまない、私が気付くべきだったんだ。気を遣わせてしまった。」 そして、帰って休みなさい、送るから。そう言って立ち上がった。 「そこまで出れば車を拾える。歩けるか。」 ロイはゆっくりと歩を進める。 そのうち背中の気配の静かさにロイは振り向き、エドワードが後ろにいないのに気が付いた。 向こうを見やると、橋端にうずくまる人影が見え、ロイは慌てて駆け寄った。 「………う………う……」 「ひどいのか。」 ロイがエドワードの震える背中に手を置いて訊ねると、エドワードは首を静かに振った。 「エドワード?」 返事はない。 「すまない、私のせいだな。随分きつい言い方をしてしまった。」 喉の奥から声をこらえた小さな嗚咽が聞こえる。泣いているのか。 「…違う…オレが…馬鹿な…子…どもだから…間違えて使…」 「…予期せぬ事は起こるだろう。」 ロイは静かに返す。 「さ、行こう。立てるか」 ロイはエドワードの右手をとって立たせた。 エドワードの膝がきし、と軋み、その手をとったロイにも、エドワードの体重がかかる。 その久しぶりの機械鎧の感触にロイの心は大きく揺れた。 |